私がちいさい頃のお話です。 この季節になると楽しみな行事がありました。
針供養。
私の母が和裁の師匠をしていて、家には何曜日でしたか、4、5人の若いお姉
さん達が通って来ていて、それはそれはにぎやかでした。
2、3台の裁ち板を並べて、こちら側に母が向こう側にお姉さん達が絎け台をお
座布団の中に挟んで並んでいます。 いつもは静かにお裁縫ですが、何かの話
に花が咲くともうたいへん爆笑の嵐になってしまいます。
そしてこの季節がやってきます。
日頃お世話になっているお針さんに感謝をし、折れて役を終えたお針さんの供養
の日。
小さい子供には楽しい日。
その日は母と姉やお裁縫の生徒さんが集まって朝からご馳走を作るのです。
といっても今のように本当に豪華なメニューではありません。 ご馳走といっても
チラシ寿司や、当時モダンなお野菜とされていたカリフラワーのサラダなど、こん
な食事です。 でも昔はこんなものでも子供心には大変なご馳走で、朝からワク
ワクしたものでした。
この日ばかりは女性パワー全開でアハハオホホの半日が過ぎます。
そして午後遅く、お豆腐に折れ針を刺して、紙か経木でできた小さな船にそれを
載せて、近くの小川へ運ぶのです。
みんなが目を瞑り手を合わせたなかを小さな船は流れていきます。
ただこれだけの行事なのですが、冬が終わると楽しい事が待っているという何
気ない期待感が楽しかったのですね。
でも子供心に ( アレ 川に入った人の足、刺さるよね。 )
と思っていたのですが、鉄の針はすぐ錆びてもろくなるそうです。
よかったァ~